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このページでは、鋳造シミュレーションに関係する
技術的な背景や、基礎知識を紹介しています。

少しずつ、内容を増やして行きますので、時々
思い出されたらご確認ください。(2018年2月14日)

遠回りになりますが、広い範囲で鋳造の技術の
紹介もしていきます。その方が分かりやすいです。
「温故知新」、先人の知恵に学ぶところ、大です。
そして、「知識を正しく使うとき、初めて教育の
目的は果たされます」。教育が良心に刻まれて
そうして初めて教育の目的が達成されると考えます。

●鋳造シミュレーション技術 ●鋳造の技術史
に分けて解説しています。
このページは「鋳造シミュレーション技術」です。
●「鋳物の技術史(人物編)」●鋳造欠陥の整理

1.鋳造シミュレーション技術について (数値解について簡単な説明のページはこちら

(1)歴史
1960年代から凝固解析について研究されるようになり、1980年代初頭から普及し
始めました。湯流れ解析については、Los Alamos 科学研究所などの研究機関で
研究が開始され、1983年ピッツバーグ大学のW.S.Hwang、R.A.Stoehrらが、その
成果を鋳造プロセスにおける溶湯流動過程に応用しています。その後の研究・開発に
よって、1999年頃には普及し始めており、今日の鋳造シミュレーションは実用的な
品質予測のツールとして認知されてきています。JSCASTはパイオニアの一つです。

鋳造プロセスへのCAEの適用は、1960年代までさかのぼり、大型鋳鋼品の電熱解析
から凝固解析を可視化するために利用されました。湯流れ解析は、流れの基礎方程式が
凝固解析に比べると格段に複雑で、解析時間も膨大であることから、1980年代になり
ようやく着手されました。2000年以降は、パソコンでのCAD/CAMシステムの連携が
進んだことから、モデルのメッシュ作成の負荷が激減し、普及が加速した経緯があります。

コンピューター上での仮想実験(シミュレーション、CAE)は、手書きの製図作業が
パソコン上でのCADに置き換わることで、CAE・CADの統合が進み、発展しています。
1950年代には、CAEは大変高価で、専門家だけが扱うブラックボックス的な面があり
ましたが、その後、差分法、有限要素法、境界要素法などの数値解析法を用いた
様々なプログラムが開発され、適用領域もパソコンの性能と共に拡大していきました。
(頂点モデル→ワイヤーフレームモデル→サーフェイスモデル→ソリッドモデルへと進化)

RP(Rapid Prototyping)という3DのCADで作成された形状データーから、現物の立体
モデルを製造する手法も1980年代に光硬化性樹脂も用いた光造形法が発表された
のをきっかけに開発が進められ、3Dプリンタと呼ばれる積層造形機の特許、2007年に
切れたために10万円台の安価な3Dプリンタが出回り、急速に普及し出しています。

(2)基礎式について
連続の式(質量)、運動量保存式(速度)、エネルギー保存式(温度)の3つが基本です。
粘性を考慮した運動方程式がナビエ−ストークス方程式です。(N−S方程式)
また、圧力を含めた、状態式を4つ目に加えることもあります。2成分以上から成る系
では、拡散方程式を解くことになります。これらは偏微分方程式で記述されています。

x,y,zの直交座標系では、通常、時間を独立変数とし、速度、圧力、温度、濃度を従属変数
(時間によって変化する)としていますが、従属変数を空間に固定された座標によって定義
する表し方を、オイラー表示、各粒子ごとに定義する表し方をラグランジュ表示と言います。
流れの場を解く場合は、任意の場の情報が必要なので、オイラー表示が都合が良いです。
基礎式の導出は、分かりやすい直交座標系(x,y,z)を使うことが多いのですが、他の座標系
へと変換する便宜性も考慮し、テンソル形式で併記されることもあります。

物理現象に対し、実際の物理モデルでなく、数学モデルは主として連立微分方程式によって
構成されますが、実際に興味ある現象を予測することは困難で、限られた範囲のものしか解く
ことは出来ません(厳密解)。対象領域全てではなく、領域内の離散した格子の情報を得る、
数値解法がパソコンの発達と共に強力な手法として採用されています。数値解法の場合、
微分方程式ではなく、代数方程式を使うので簡単になります。実験と違って、低コスト、
所要時間が短い、という利点があります。しかし、適切な数学モデルでなければ無意味です。

(3)基礎式の表示について
上記(2)の式は、それぞれ積分表示と、微分表示とがあります。一長一短です。
歴史が古いのは微分表示で、積分表示は、有限体積法や有限要素法です。

(4)数値計算法
基礎式を満足する数値を求める有限差分法(FDM)と、基礎式を満足する解の近似式を
求める有限要素法(FEM)、境界条件を満足する解を求めるのが境界要素法(BEM)です。
数値解析は、個展的な応用数学(微積分を用いて定式家)と現代応用数学(離散数学)の
接点にあります。計算の効率(手間と精度)を考慮に入れてプログラムを組みます。誤差には
打ち切り誤差(無限を有限化)と、まるめの誤差(無限小数を有限桁にする)があります。
古典的数値解析の中心課題に補間というものがあります。コンピューターが発達した現在
では、古典的な凝った補間法が必要なのは比較的まれですが、数値積分・数値積分・
常微分方程式の数値積分などの古典的な解法は補間公式から直接導くことが出来ます。
代表的な補間法に、ラグランジュ(Lagrange)補間、有限差分(Newtonの前進・後退公式、
Gaussの前進・後退公式)などがあります。

(5)各数値解析の特色
有限差分法(FDM)は、複雑な形状のものは難しく、有限要素法(FEM)は、熱流体現象の
直接的な理解には不向き、境界要素法(BEM)は基礎式が特殊な場合に限られます。

(6)基礎式の離散化
物理現象を表現している微分方程式を、離散化方程式に誘導する(差分法か有限要素法)
方法はいくつかあります。代表的なものに、テーラー級数を用いる方法、変分法、重みつき
残差法(ガラーキン法)、コントロール・ボリューム法(理解しやすい)などがあります。なお、
コントロール・ボリュームの界面の取り方は格子点の位置関係でいくつか方法があります。
コントロール・ボリューム法は、通常、直交座標を使います(フランスの哲学者のデカルト
(Des Cartes)にちなんで、なので、カーテシアン座標とも呼ぶ)が、二次元極座標のように、
どのような直交座標系でも使えます。

速度成分に対しては、スタッガード格子がよく使われます。スタッガード格子は、最初、
1965年にMAC法によって使われ、1972年のSIVA法、SIMPLE法の基礎になっています。

基礎式を数値解析するために離散化し、連立方程式を解きます。未知数が時間のみの
陽解法、未知数が空間、時間にまたがる陰解法があります。陽解法、陰解法、それぞれ、
離散化は、前進オイラー法(オイラー陽解法)、後退オイラー法(オイラー陰解法)とよばれ
ます。解の収束性については、陽解法よりも陰解法の方が解が安定になります。なお、
陽解法と陰解法の間に、クランク・ニコルソン法があり、多くの条件で安定しています。
常微分方程式の数値解析は、テーラー(Taylor)級数を用いる方法の他、ルンゲ・クッタ
(Runge-Kutta法)が用いられます。

流れの場を計算するアルゴリズムについては、大きく分けて2つあります。1つ目はMAC
(Marker-and-Cell)法に基づく系統(陽解法)であり、2つ目はSIMPLE(semi-implicit method
for pressure linked eqation)法に基づく(半)陰的な解法です。また、MAC法を簡略化した
SMAC(Simplified MAC)法や、MAC法で解いた圧力に関するポアソン方程式をニュートン
法で解くHSMAC(Highly Simplified MAC)、或いはSOLA(solution algorithm)法もあります。
SIMPLEを収束性が上がるように改良したのが、SIMPLER法(SIMPLE Revised)です。

流体の流れによって、対流が発生します。対流項(そして拡散項)を計算する場合、
中心差分で解くのは不向きの場合があります。その解決法として、風上差分、解析的に
解く、厳密解(指数法)、ハイブリッド法、べき乗法などがあります。

(7)方程式の解法
連立方程式は、Gauss-Seider(ガウス−ザイデル)法、SOR法、共役勾配法等で解きます。
分類として、直接法(LU分解、ガウスの消去法、Gauss-Jordan(ガウス−ジョルダン法))、
間接法(ヤコビ法、ガウス−ザイデル法、SOR法(Successive Over-Relaxation)の二つが
あります。その他、クロリフ部分空間法(共役勾配法、共役残差法、安定化双共役勾配法
(Bi-CGSTAB))があります。直接法は、丸め誤差がなければ厳密解を得ることが可能では
ありますが、格子の数の行列を使う大規模な計算となるので、必要なメモリーが膨大になり、
計算時間もかかるので、実用的ではありません。そこで、偏微分方程式を差分法によって
離散化して解くことになります。ガウスの消去法を発展させたのがLU分解で、有限回数の
演算で解を求めることが出来ますが、係数マトリクスの次元が大きくなると、大きなメモリー、
多数の演算回数が必要となり、計算時間が膨大になります。一方、連立方程式の解を
修正しながら解を求める方法があり、反復法と呼ばれます。効率的に解を求めることが出来
ます。有限要素法で用いられる反復法としては、共役勾配法が代表的で、並列計算処理も
可能となって、効率的に解を得られることが期待できます。

方程式を直接法(TDMA:三重対角行列アルゴリズム)で解くと、かなりのメモリー量と時間が
必要となりますので、反復法を使います。反復法には、一番簡単な、ガウス−ザイデル法の
他に、SIP法(StronglyImplicit Procedure)などがあります。直接法とガウス−ザイデル法を
組み合わせた線順法も知られています。

(8)CAEを利用した計算の流れ(モデルの構築を観察に合うまで繰り返します)
3Dモデルの作成 → メッシュ分割  → 条件設定 → 計算 → 結果出力 → 評価
→(思わしくない場合は、形状の変更、条件の変更を繰り返し) → 完了 です。

 A.メッシュ分割 有限要素法(FEM)、差分法(FDM)に大別されます。(メッシュの不要な
            粒子法も出てきています) FEMは形状の再現性、解析結果の精度は
            良いが、解析モデルの作成が難しいという欠点もあります。FDMは、解析
            モデルの作成が容易、計算速度も速いのですが、形状再現性と、解析精度に
            難があると言われています。FEMでも、メッシュをうまく作成しなければ、
            良い結果を得ることが出来なくなります。(大事ですが、見落とされています)


 B.条件設定   金属の密度、動粘性係数などの物性値、溶湯や金型の温度の初期条件、
            溶湯/金型間の熱伝達係数などの境界条件、溶湯の解析条件を設定
            しますが、あまりに現象に忠実にしようとすると、解析が複雑になり、計算
            時間が長くなり、計算が収束しなくなる(発散する)ので、目的に合う条件
            設定をします。


 C.計算      計算を行う部分は、ソルバーと呼ばれます。湯流れと凝固解析を一緒に
            計算する連成解析や、組織予測、熱応力解析など、様々なソルバーが
            あります。(JSCASTのソルバの例) 凝固欠陥の予測法には、主に
            等温度法、G/√R法、直接シミュレーション法(定量予測も可能。マクロ
            ひけ巣、ざく巣などの位置と大きさまで正確に予測可能)があります。
            弾塑性解析(Elastic-Plastic Analysis)も可能です。

 D.結果の出力  数値解析結果を、可視化する部分で、ポスト・プロセッサと呼ばれます。
             湯流れ解析の場合は充填状況や速度分布、凝固解析の場合、温度勾配、
             凝固時間などが表示されます。

 E.評価      実際の欠陥の発生位置と湯流れ解析の結果を照合します。具体的には
            最終充填部の位置、湯境やガス巻き込み(ブローホール)の関連の検討
            などです。ポロシティの位置や定量分析などの評価もJSCASTで可能です。

 F.繰り返し(形状、条件変更) 解析結果を参考に、モデル形状、条件、要素サイズなどを
            変更し、再解析します。自動化(AI)の適用が検討されています。

 G.解析の種類  湯流れ解析(湯境、ガス欠陥(ブローホール))、凝固解析(引け巣の
             発生の予測には、等固相率法、等温度法、凝固時間法、温度勾配法)、
             変形、金型温度解析(焼きつきの発生を予測する)などがあります。

             鋳造シミュレーション(CAE)に対する不満は、1位予測精度(29%)、2位
             欠陥判定基準(26%)という統計があります(2006年度鋳造CAE研究部会)。
             この傾向は、性能が上がった現在(2018年)でも変わらないようです。

             ダイカストでは、品質や生産性の50%が製品形状、30%が鋳造方案で
             支配され、残り20%が鋳造条件(作業を含む)だと言われます。また、
             ダイカストは製品形状を含めた金型で80%が決定するとも言われます。


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