1.数値解と解析解の違い
数値解とは、微分方程式を積分するなどして、関数の
形で得られた厳密解。
解析解とは、差分法などの数値演算による近似解。
数値解は、変数と解が一目で分かり、関数の形に
なっているので、式に変数を代入すると解が直ちに
求まる。しかし、単純な問題しか解けない。
一方の解析解は、複雑な問題にも適用できるが、
条件が変わるたびに、いちいち、計算しなおさなけれ
ばならない。一目で分からず、見通しが良くない。
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●直観を大切にする
出来る限り、解析解を使った方が
物理現象に関して、理解が深まり
ます。また、数値解を使うときでも、
解析的に整理が必要です。
●シミュレーションに溺れない
市販の鋳造シミュレーションソフトは
色々な解析が出来て、便利では
ありますが、正しく活用するためには
計算の内容を理解しておくことが
大切です。研究を目的とする時は
市販のソフトでは満足できないので
プログラムが自作できるのが良い。
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2.数値解の技法について
数値解法には、差分法・有限要素法などがあります。
さらに、それらにも、細かく、種々の手法がありますが、
大まかに言えば、精度や計算速度に大差ありせん。
差分法の代表的なものが、陽的差分法と呼ばれる
ものです。(陰的差分法もあります 下の7.参考)
数値解の歴史ついて詳しくはこちらのページへ
陽的差分法(陽的解法)のことを、前進差分法、
陰的差分法(陰的解法)のことを、後退差分法、
とも呼び、陰的解法のには、後退差分法の他に
クランク-ニコルソン法(改良オイラー法)もある。
実際の複雑形状をしたモデルにおいては、差分法
ではなく、有限要素法、境界要素法があります。
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●差分式の展開(離散化)
物理現象→微分方程式→差分式
という流れで、数値解を解きます。
差分式にする時の展開の方法には
テーラー展開(有限差分法)などが
あります。
厳密な、微分方程式を差分式に
変換する技法(離散化)については、
コンピュータ伝熱・凝固解析入門
(大中逸雄 著)が参考になります。
でも、初めての人には難しいかも。
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3.計算領域の定義について
コンピューターを使ってシミュレーションをする場合、
計算・解析の対象となる領域をメッシュで切ります。
(要素分割とも呼び、オイラー系の手法と呼びます。
一方、要素分割が不要のラグランジュ系の手法、
例えば、粒子法というものもあります。)
メッシュで切った領域(要素)に、物理的な値(温度
など)を持たせて計算しますが、その値を持たせる
位置(節点:node)を、要素の中心にするか(内接点)、
要素の頂点に設定するか(外節点)で、計算式が
変わります。(流動計算の流速は、辺に持たせます)
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●節点
一次元等分割による直接差分法
iは節点で、斜線部は節点領域
(内節点法)

(外節点法)

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4.鋳造に特徴的な熱の取り扱い(潜熱)
鋳造工程においては、金属が固まります。つまり、
液体から固体になるのですが、その時に、潜熱と
呼ばれる熱を出します。これが、特徴です。
純金属は一気に潜熱を放出し、合金は、グズグズ
液相線と固相線の間で温度低下しつつ放出します。
この過程を数値計算する場合、主に3つの方法で
取り扱うことが知られています。
(1)温度回復法 純金属に適している。
(2)等価比熱法 等価とは、見かけ、の意味で、
温度によって見かけの比熱を使う。
(3)エンタルピー法(含熱量法) 含熱量と温度との
関係は右図のとおりになる。
純金属、合金、共晶で同じような
プログラムで扱え、すっきりした形。
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●含熱量と温度との関係

熱力学的な、平衡状態(マクロな視点)
ではこうなる。実際には、過冷却や
結晶の核発生、成長など非平衡な
状態になる。(ミクロな視点)になる。
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5.凝固形式と凝固温度範囲※2
金属が固まる時に、その形式は主に2つあります。
(1)表皮形成型
純金属のように、凝固温度範囲が0か、狭い
温度範囲を持つ合金(Skin formation)
純銅、アルミニウム、青銅、黄銅、クロム銅など
固相・液相が完全に分かれるため、収縮に
対する溶湯補給が容易。適当な押湯を設けて
欠陥を排除することが容易。
(2)かゆ状型(マッシー型)
温度範囲の広い合金に見られる凝固形態。
りん青銅、すず青銅、洋白(Cu・Zn・Ni,500玉)
等は、固相率が50〜70%になるとかゆ状になり、
生成したデンドライトの樹間に微細な収縮巣
(ミクロポロシティ)が発生。冷金か金型を用い
温度勾配を大きくとり、指向性凝固させる。
Cu-Sn系合金では、かゆ状凝固により収縮巣の
発生とSnの偏析、逆偏析が生じる。 |
純金属 短い凝固範囲の合金

中位の凝固範囲の合金 長い凝固範囲の合金

デンドライト凝固の場合は、ダルシー
流れをモデルとして計算しています。
(下の凝固形態を考慮した流動停止) |
【凝固形態を考慮した湯回り不良予測(流動停止)】
湯回り不良がどこで発生するのか予測するには
(1)溶湯(湯先)の温度の低下(固相率の上昇)
(2)鋳型内の圧力の上昇(背圧)
などを見るのが普通ですが、JSCASTでは、右の
図のように金属の種類によって、さらに詳しく評価
できるようになっています。(純金属、鋳鉄、合金で
凝固形態が異なるため、凝固形態を選択できます)
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(クリックで見やすくなります)
便利な操作説明書を用意しています。 |
6.差分式の精度と、風上差分と中心差分
テーラー展開を打ち切る際に、儿のオーダーで
打ち切る場合を、1次精度、あるいは、差分近似の
オーダーは1次であると表現し、儿の2乗の項を
2次精度であると表現します。

Xの関数のφ(X)を考える場合、Xの前後の関数値
φ(X-1)、φ(X+1)を使う場合を中心差分と呼び、
Xの値であるφ(X)と、Xの後の関数値、φ(X-1)を
使う場合を後退差分と呼びます。そして、後退差分を
使う方法を風上差分と呼びます。風上差分は、中心
差分を安定させる目的で使います。
1次精度の後退差分を用いた場合、1次精度風上
差分スキームという表現をします。
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7.陽解法と陰解法
空間と時間が同時に変化する時、横軸に空間(X)、
縦軸に時間(t)をとり、時間tにおける座標(Xi)と、
その前後の値から、未知の時間t+凾狽ノおける
座標Xiの値を求めるのが陽解法です。
一方、時間tにおける座標(Xi)と、その前後の値、
そして、未知の時間t+凾狽ノおける座標Xiの前後の
値から、時間t+凾狽ノおける座標Xiの値を求める
のが陰解法です。
陰解法の法が計算が複雑になりますが、冲の
値を大きく出来るので、結果が早く出る(収束する
と表現する)ことが、多々あります。 |
●陽解法と陰解法のイメージ
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8.連立方程式の解法
例えば流れの計算の場合、運動量保存則(ニュートンの
第二法則を変形したもの。流体ではナビエストークスの
式とも呼ぶ)と、質量保存則(セル内の物体の質量の
情報)を連立させた微分方程式を解きますが、実際に
パソコンで計算させるためには差分式にして、つまり、
運動量保存則の差分式(主な未知数は、速度、圧力等)
質量保存則の差分式(主な未知数は速度等)を解きます。
(方程式の概要は、便利な操作説明書にもあります)
2つの保存則の式で共通して未知数である速度を消去
するように連立させた差分式(主な未知数は、圧力)を
圧力方程式と呼びます。(右の上段のn個の式)
計算するセルがn個有るとすると、連立させた差分式も
n個有り、マトリックスにして一度に解くことになります。
(右の下段の式)例えば、SOR法などを使って解きます。
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(クリックすると拡大します)

このマトリックスをSOR法等で解く。
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9.合金のデンドライト凝固(※4)
多くの実用材料は合金です。純金属と異なり、通常、
合金の凝固界面は不安定で、G(固液界面での温度
勾配)とV(結晶成長速度)が小さくなるに従い、
結晶の先端が突起してきます。熱の流れ方向に加え
直角方向にも凹凸が生じた結晶がデンドライトです。
(界面が荒れる場合、ノンファセット凝固とも言う)
固液界面が荒れた時にデンドライトの形になります。
半導体のシリコンやゲルマニウムのように平滑な
固液界面の場合は、リボン状結晶になります。
(界面が平滑な場合、ファセット凝固ともいう)
金属とシリコン(非金属)合金の場合、「共晶」になり、
組み合わせとして考えられるのは、下記の3つです。
(1)ノンファセット/ノンファセット(Ni耐熱合金など)
(2)ノンファセット/ファセット(Fe-C系、Al-Si系)
(3)ファセット/ファセット →セラミックなので割愛
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(b) → (c) → (d) → (e) でG/Vが小
Fe-C系の代表的な材料、鋳鉄では
通常は組織中にデンドライトは見え
ませんが、晶出した黒鉛(C)の形に
眼がだまされてい見えないだけで、
凝固中に液相を除くと見えます(右)
 
デンドライトが太り、等軸晶、柱状晶に。
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